世界的にインフレが大きく上昇し、そのインフレを抑えるために、各国の中央銀行は、金利を上げて、インフレを抑制しようとしています。
そして、その金利の引き上げによって、株式市場は下落したり、なかなか上がりにくくなっていたりします。
(「軟調に推移」という言い方をします)
株価に影響を与える、インフレ・金利・労働市場、そして金利
インフレ、金利と株、この3つの関係はどのようになっているのでしょうか?
更に、インフレとその動向に影響を与える労働市場の関係も、ご説明したいと思います。
これらの関係が厄介なのは、その関係が常に同じという訳ではないということです。
景気のサイクルのどの位置にいるのかとか、株式市場の「今の」関心事がどこにあるのか、というようなことで変わってきます。
このように常に同じように動くとは限りません。
そのため、その関係を恒久的な関係として説明することは出来ないのが現状です。
インフレが高い中で、株価が上昇し続けるケースもあれば、株価が下落するケースもあります。
最近の例で言えば、インフレは株価にマイナスに働いています。
これは、インフレが上昇する、あるいはインフレが収まらないことで、金利が更に上昇するもしくは高い金利の状況が長く続く、ということで株価にはマイナスの影響となります。
インフレと金利の基本的な関係
インフレと金利の関係で言えば、概ね、インフレの上昇は、金利の上昇を招きます。
過度なインフレは、経済的には貨幣価値が下がることにもなります。
(同じものを買うのに必要なお金の量が増える→お金の価値が落ちていることを意味する)
それを守るために、中央銀行(アメリカではFRB、日本では日本銀行)は金利を上げて、市場からお金を引き上げます。
インフレ→金利上昇
これは、覚えていて良いかと思います。
金利の上昇は基本的には株価にはマイナスの影響を及ぼすことが多いですが、そうならないこともあるということも覚えておいて下さい。
金利と株価の関係は、以前、別の記事で書いています。
「債券の話 なぜ金利が上がると株価がさがるのか」を参照いただければと思います。
>>>「債券の話 なぜ金利が上がると株価がさがるのか」の記事はこちらから
インフレの程度と金融政策の動きの状況次第で、株価への影響の仕方は異なります。
最近の状況(2022年~2023年)を前提にお話すると、インフレの上昇、インフレの高止まり、インフレ鎮静化の遅れは、株価にマイナスに働いています。
インフレに影響を与える雇用市場
FRBはインフレを鎮静化させるために、急速な利上げを実施し、インフレの鎮静化を図ってきています。
インフレ上昇が天井を打ったかに見えた一方で、雇用市場がタイトなままであることで、インフレの鎮静化速度が減速する懸念が出ていたりします。
堅調な労働市場の継続→インフレ鎮静化速度の減速→金利の高止まり懸念→株価下落
という連鎖が起きました。
堅調な労働市場、タイトな労働市場、と言った表現は、失業率が低く、求人の強さが、求職の強さを上回り、どちらかというと労働の出し手、すなわち労働者側に有利な状況を指します。
インフレと労働市場の関係を見ていきたいと思います。
インフレとは?
まずはインフレ率についてのおさらいです。
インフレ率=物価上昇率です。
かなりざっくりした言い方になりますが、いろいろな商品・サービスの総体としての価格を指数化して、その動きによって物価の上昇率を計算しています。
このインフレをどのようなものを物価の変動を測定する対象にするのか、など様々な方法が考えられています。
一般的にはCPI(消費者物価指数。Consumer Price Index)が、インフレの代表的なものとして知られています。
変動の大きいエネルギーと食品を除いたコア指数というのが比較的安定的な動きをするので、参照されることが多いです。
一方、個人消費支出から逆算して計算されるインフレ指標(PCEデフレーター)もありますし、GDPから算出されるものもあります。
PCEデフレーターと呼ばれるものは、現在の連邦準備銀行(FRB)の公開市場委員会(FOMC。金融政策の決定を行う会合)が重視している指標として注目されています。
様ざまな計算方法がありますが、インフレは物価の変動を表す指標という点では同じです。
インフレは、常に率で表示されています。
100のモノが翌年105になれば、インフレ率5%です。
その翌年110になれば、110÷105-1=0.0476で+4.76%の上昇となり、価格上昇幅は同じでもインフレ率は少し下がります。
次の年に115になった場合は、同じように計算すると4.55%のインフレになります。
同じだけ価格が上昇し続けても、インフレ率は低下していきます。
また、上がった価格で止まって、価格が低下しなくても、インフレ率はゼロということになります。
消費者が、価格が高くなったから、消費を控える、あるいは、安い代替品に変えようというような行動をとると、価格は上昇しにくくなるので、インフレは次第に落ち着いてくると考えられます。
インフレ鎮静化のための利上げ
インフレ退治のために金利を上げるのは、金利を上げて、お金を借りるコストを上げる、預貯金するインセンティブを高くする、ということです。
これによって、世の中に出回るお金の流通量が減り、高くても買う・サービスを利用するという行動が制約されやすくなる、という仕組みです。
インフレが収まらない最大の原因は、消費者が価格上昇にもかかわらず、そのモノやサービスを買い続けるという行動をとり続けることです。
(景気が過熱している時などに起きやすい現象です)
この利上げをして消費者の消費行動を抑える対策をしている際中に、労働市場が強いとどうなるでしょうか?
強い労働市場とインフレ
雇用状況が強いというのは、雇う側ではなく、働く側に有利な状況ですから、賃金が上がりやすい。
賃金が上昇すると、収入が増えるので、モノやサービスの価格が上がっても同じ消費を続けやすいということになります。
即ち、モノ・サービスの価格が上昇を続けやすい環境が発生しやすいのです。
賃金上昇が起こり、同時に貯蓄率が上昇すれば、消費にあまり回らないので、問題ないでしょう。
個人レベルではそれが正しい行動ですが、全体としてはそのようなことは起きにくいのが現状です。
賃金が上昇すると同じ消費行動をとり続ける、もしくはより多くの消費を行うという行動に出やすくなります。
そのため、労働市場が強すぎるとインフレの鎮静化が遅れるとの予想が強くなり、金利が上がり続ける、あるいは高位で安定する、という懸念が強くなってしまうのです。
日本は状況が少し異なる
日本では、賃金の上昇が起きていないので、インフレが欧米に比べて低位になっています。
日本の場合は、コストが上がることによるインフレではなく、需要が強くなることで経済を活性化するインフレの状況を作りたい、ということです。
インフレの性質が異なりますし、そのための対応策も異なってきています。
インフレは低い方が良い?
労働市場が強いことを、今の金融市場は嫌っていると言うと、金融市場というのは、人の不幸を喜ぶ不届きな奴らの集まりだと思われるかもしれません。
確かに、そのような輩もいるのも確かです。
ただ、全体としては、安定した経済成長のもと、低位のインフレが継続することは、望ましいと考えています。
一部に過熱感が出てくると、その後の激しい景気後退やそれに伴う社会不安なども起きやすい状況が起きます。
それを避けたい。
過度なインフレは貨幣価値を落とすことにもなりますので、国際的な資金の流れにおいても、長期的には不利益となります。
そのため、中央銀行は景気を冷やすような、利上げといった行動をとっている訳です。
(今回のインフレの説明では、需要サイドが要因のインフレの部分の説明をしています。コスト上昇によるインフレに関しては政治的なものも大きく関与することが多いので割愛しています)
コメント