世界の金融市場の大きさという意味では、株式市場1に対して債券市場2くらいの割合になると言われているように、実は債券市場の方が市場規模としては大きいと言われています。
(2022年9月末で、世界の株式市場の時価総額は86兆ドル、債券市場は125兆ドルと言われています)
金融市場といったときには、債券・金利市場が主として語られているということも、経済的な重要性が金利にあることを物語っています。
市場はほぼ金融機関などプロの投資家の世界であることや、価格形成がかなり数学的に決定されます。
プロの世界であることもあり、一般には十分理解されていないという問題点もあります。
ただ、この世界は、金融テクノロジーの発展の結果として、物凄い勢いで進化しているので、全てをきちんと理解しようとしてもなかなか難しいのです。
アメリカの住宅ローン債権をバックにしたMBS(住宅抵当証家)や、アセットバック証券と言われるような証券の分析には、ロケット・サイエンティストのような人が日夜研究にしのぎを削っていたりします。
株式投資を中心とした個人投資家は、そこまで知る必要はないです。
ただ、金利の大まかな理解と、金利が株式市場に及ぼす影響の背景を知っておく必要はあるかと思います。
債券の価格と金利の関係
まず、債券の価格と金利の関係の復習です。
債券価格が上昇すると金利は低下し、債券価格が下落すると金利は上昇します。
これは最低限理解しておいてください。
金利が低下すると、株価にとってはプラスです。
すなわち上昇方向の要因として働きます。
それは、なぜでしょうか?
まず、若干理屈っぽい方の理由だからです。
株価の価格を求めるモデルと配当割引モデル
株価の理論価格形成のモデルでも、多くのケースで金利が使われています。
例えば、株価の価格を求めるモデルと一般的なものとして、配当割引モデルなどがあります。
これは、将来受け取る配当を予想し、将来にわたって受け取る配当の現在価値を、金利を使って割り戻して株価の適正価格を想定しようというものです。
配当割引モデル以外で使われるモデルでも、多くのものは収益なり何らかのキャッシュフローを金利で割り引くものが多いのです。
割引モデルでは、割引くときの金利が低いと現在価格はその分大きくなります。
また、皆さんが株の割安・割高度を測る尺度としてよく使われるPER=Price Earnings Ratio株価収益率があります。
これは、益回り(Earnings Yield 一株当たり収益÷株価)の逆数です。
益回りは、ある会社の株を購入すると、その投資から当該会社はどれだけの収益を上げられるかというものです。
株を買うことがその会社を部分的に所有することと考えれば、この益回りが株式投資家にとって最も大事な指標です。
そして、この益回りがどのくらいであれば妥当と感じるかは、債券利回りの水準に左右されます。
投資家としてみれば、その会社に資金を融資で提供するか株式を購入することで提供するかの選択ができるわけですから、金利が低下すると、要求する益回りの水準は金利の高さの影響を受けます。
すなわち金利が低ければ、益回りも低くても容認できる。
すなわち、益回りが低くなる→PERが大きくなる(益回りはPERの逆数)。
すなわち金利の低下はPERを拡大させる要因になると言えます。
配当重視の投資家であった場合に、金利はどう影響するでしょうか。
債券の金利に匹敵するのが、株の世界では、配当利回りになります。
配当狙いの投資では、配当利回りの高いものに投資するとして、金利が高く、債券投資で得られる利回りの方が高い場合は、株の配当利回りの相対的な魅力度は低下します。
一方、金利が低下すると、高配当株の相対的魅力度が増します。
この場合も低金利が株価にとってプラスになる要因になります。
REIT(上場不動産投資信託)やユティリティ銘柄(電力・水道など)などは、配当利回りが高いため、債券市場の金利動向に大きな影響を受けて、価格が上下します。
金利が低下すると、REIT価格は上昇し、REITの配当利回りは低下します。
もらえる配当は同じだが、価格が上昇するので、結果として利回りは低下。
ユティリティも同じです。
割安・割高を図るバリュエーションや株価の適正価格の理論的な値を求めるために金利が関係し、金利低下が株価の上昇に理論的に影響することになっています。
実際に取引している人は、いちいち、そんなことを考えながら取引をしているわけではなく、金利低下→株は買い、とほぼ反射神経で動けるように覚えているのであろうと思いますし、通常はそれで充分でしょう。
金融政策面から通常金利の株価への影響
金融政策面から、その理由を考えてみましょう。
通常金利の株価への影響の説明の多くはこの政策面からの説明が多いかと思います。
金融政策において、金利の低め誘導(利下げ)の意図するところは、景気刺激と金融システムの保護にあります。
利下げをすることで、負債の多い企業(成長期の企業に多い)の低い金利での借り換えを促すなどの効果だけでなく、銀行の貸し出し金利を下げて、借りやすくすることで景気刺激を図ろうとしています。
米国の中央銀行は、連邦準備制度理事会(FRB)であり、その公開市場委員会(FOMC)で金融政策が決められます。
ここで決めることができる金利は、FF金利(Federal Fund Rate)の誘導水準です。
このFF金利というのは、銀行間で行われているオーバーナイトの最も短い期間の最も流動性の高い資金の貸し借りの金利がFF金利と覚えていただければ良いかと思います。(日本のコール市場に相当するものです。)
この金利が低下すると、フェデラル・ファンドに預けるより、銀行間で貸し出す、あるいは自行で資金ニーズのある人に貸出を行って、金利を稼ぐ方が合理的という判断が働くはずであるというのが、この金融政策の根底にあります。
そして、このFF金利を基準として、市場においてその他の年限の金利が決まっていきます。
FF金利が低下すれば、全体の金利が低下方向に動き、FF金利が上昇すれば、全体の金利は上昇方向に動きます。
理論的な意味でも、金利は株価に大きな影響を与えていますし、金融政策は、景気刺激や市場への資金供給という観点から、株価に大きな影響を与えています。
金利低下は株価にプラスということの背景には、こうした理屈や現実があります。
こうしたことを知らなくても、問題はないですが、知っていると、想定とは異なる動きが出た時に対応しやすいかと思います。
FRBが低金利政策をとる時の状況
FRBが低金利政策をとるときは、景気が悪くなってきている時です。
ということは企業の業績も既に悪くなっている、あるいは悪くなりそうなときです。
これは、株にはマイナスですよね。
それなのに、株が上昇するのは?
これは、見ている時点の違い。株式市場は景気の悪さは既に織り込んでいます。
むしろ金融政策の効果が出る先を見て動いているからです。
株式市場が、金利よりも業績の伸びに注目している時期は、金利の動きに必ずしも株価が左右されないこともあります。
常に金利低下=株価上昇とは限りませんが、金利低下が株価上昇にプラスになることは多いので、基本的にはポジティブと考えてよいと思います。
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