株式投資を楽しくするビジネスのダイナミズム ~後発効果とイノベーションのジレンマ~

成長企業 投資の始め方

後発効果ってご存知ですか?

後発効果(late development effect)とは、制度や技術を先行する他国や他社などよりも遅い段階で採用したため、何らかの好ましい影響がみられる効果のこと(その副作用を含む場合もある)です。

イギリスの社会学者で日本の経済及び社会構造、資本主義の比較研究で知られるロナルド・ドーアによって用いられた言葉です。

その著書「学歴社会 新しい文明病」で、ドーアは、19世紀ドイツの鉄鋼業におけるイギリスに対するキャッチアップや、戦後日本の造船業などを例として挙げています。

組織指向型に日本企業が形成されていく過程で、学歴が利用され、学歴社会が形成されていったと指摘しています。

これによって、日本が急激に欧米諸国に追いついていったと分析しています。

ここでは、学歴社会の問題を取り上げるのではなく、「制度や技術を先行する他国や他社などよりも遅い段階で採用することで起きる技術の急速な発展」について、取り上げてみようと思います。

遅い段階で採用することで起きる技術の急速な発展

進歩

先進国で起きた技術の進展に対して、最先端でない国々が、先進国が達成した技術の最先端を取り入れることで、途中の過程をスキップして、一気に最先端を取り入れることができます。

おそらく現時点で、それを最もよく示している例は、電話ではないかと思われます。

先進国では、1875年にベルが発明した電話機(エジソンも含め様々な人が研究していたが、米国特許庁への申請が最も早かったのはアレクサンダー・グラハム・ベルでした)から始まり、電話線を張りめぐらして、電話を使用していました。

1980年代に自動車電話などのポータブルフォンが発明され、90年代に携帯電話が普及し始めます。

そして、ブラックベリーが先駆けとなり、今のスマートフォンが普及してきています。

発展途上国は、これと同じ道をたどらず、一気に携帯電話から導入してきています。

電話回線網を張り巡らす必要はなく、アンテナを各地に立てることで、携帯電話から始めることが出来ました。

発展途上国の経済や、そこで何が売れるか、ビジネスとしてどのようなものが普及するかを考えるときに、この「後発効果」ということを考慮すると、そのスピードは容易に想像できます。

先進国が、何十年もかかって進化した過程を、発展途上国は、数年でキャッチアップ(追いかけること)してしまいます。

後発効果によって、ものすごい勢いで先進国にキャッチアップしてきたのが中国です。

まだまだ中国のように、先進国にキャッチアップしてくる国が出てくると思います。

イノベーションのジレンマ

栄枯衰退

もう一つ今回取り上げたいのが、国の発展よりはミクロのレベル(家計や企業)を対象とするのものです。

ある特定業界における特定企業の栄枯盛衰の原因になるものです。

お聞きになったことのある概念だと思いますが、「イノベーションのジレンマ」です。

クレイトン・クリステンセン著「イノベーションのジレンマ」(原題はInnovator’s Dilemmaです)はベストセラーになったビジネス書なので、読まれた方も多いかと思います。

あるイノベーション(ビジネスに新しい価値を生み出す変革)を起こして、業界を先行している企業が、そのイノベーションのおかげで、次のイノベーションの流れに乗り遅れてしまうというものです

特に、大企業にとって、新興の事業や技術は、小さく魅力がなく映る、あるいは既存の事業を破壊する可能性があるものとして移ります。

また、既存の商品が優れた特色を持つがゆえに、その特色を改良することのみに注力し、顧客の需要が次の波に乗り始めていても気付かない。

そのため、前の波で大きくなった大企業は、新興市場への参入が遅れる傾向にあるのです。

その結果、既存の商品より劣るが新たな特色を持つ商品を売り出し始めた新興企業に、大きく後れを取ってしまうのである。

大企業は、最終的にそうした新興企業を買収したり、同様の似たものをより質の高いもので追撃したりして、マーケットシェアを新興企業から奪ってしまうこともあります。

イノベーションのジレンマに陥る原因は以下のようなものが挙げられています。

  1. 企業は顧客や投資家の意向が優先する
  2. 「小さな」新しい市場では、企業が成長するに十分ではない
  3. 企業は既存市場の分析によって戦略を決定する(見える世界で戦略を練っているので、視界の外の動きが見えていない)
  4. 既存事業の専門家が集まると新事業が行えなくなるため
  5. 技術力向上が市場ニーズにマッチすると勘違いする

どれもありそうな原因です。

最近の例では、日本の家電メーカーが高性能なTVや、高性能・高品質な液晶画面にこだわって研究開発を進めましたが、その技術の差より価格で中国や韓国のメーカーにシェアを奪われたことなどがあります。

日本ではベンチャーが育ちにくい

ベンチャー企業

また、日本では、イノベーションが、社内ベンチャーと称していろいろ行われています。

  • しかし、そのビジネスが小さいので、あまり本腰を入れてやれていない。
  • また、本業ビジネスの調子が悪いとすぐに縮小されたりする。

結果として、日本ではベンチャーが育ちにくくなっていたりします。

ちょっと、もったいないです。

このイノベーションのジレンマがあるが故に、技術発展の激しい分野では、リーダー企業であっても5年10年あるいはそれ以上の長期といったスパンで長期投資するのが難しいのです。

常に、当該分野、関連分野の技術革新の状況と需要動向をチェックしながら、適宜入れ替えをしていく必要があるかもしれません。

後発効果やイノベーションのジレンマは、買ったらそのままというような楽ちんな投資はさせてくれません。

しかし、ビジネスの大きなダイナミズムを見せてくれるとても興味深い現象です。

基本的な概念を知り、その観点からビジネスのダイナミズムを感じていただければ、株式投資はより面白く感じられます。

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